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腹違いとは言え敬愛する兄の出世である、濃姫も喜ばしい事だとは思っていた。
道三と義龍の仲が芳(かんば)しくない為、よもやこのような日は来ないかも知れないと案じていただけに、安堵感もひとしおなのである。
ただ、気掛かりなのは“万一の事態”が起こりはせぬかという懸念であった。
織田家への輿入れ前にも、従兄の光秀から
《 義龍様におかれましては、父上・道三様に対し奉り御謀反(ごむほん)の意志ありとの噂が、城中にて真しやかに飛びかっているのです 》
《 (道三の)孫四郎様、喜平次様へのご偏愛甚だしく、いずれは義龍様を廃嫡して、弟君様を当主の座に据えるつもりではないかと── 》【生髮水真的有用嗎?】生髮水副作用如何?為你解答! -
という話を聞かされた事があった。
この話の裏には、そういった噂が流れているとあえて本人に伝える事で、義龍の動きを封じ、
尚且つ濃姫の斎藤家への忠節を高めようという、道三の一石二鳥の企みがあった訳だが、
濃姫が実際に義龍の心中を伺ってみると、返って来たのは
『 いっそ父上を討ち取り、この美濃を我が物にした方が、気も楽になるのでは… 』
という思いがけない本音であった。
また彼は、道三によって美濃を追われた前守護・土岐氏の子供ではないかと本気で疑っている節がある。
これに関しては義龍も一応の否定はしていたが、完全に疑惑を消し去った訳ではなさそうだった。
もしも兄がこのまま斎藤家当主の座に治まれば、日ならずして、我らが父上を討ち取る為に戦を仕掛けるのでは──…
「……と考えるのは、些(いささ)か早計過ぎるのであろうな」
「は? 何が早計なのでございますか」
「いいや、ただの独り言じゃ」
濃姫がその利口な表情の上に、どこか無機質にも見える微笑を浮かべていると
「畏れながら申し上げます──。お方様、殿のお成りにございます」
部屋の入口から、信長の訪れを報(しら)せる侍女の声が響いた。
「まあ、こちらも時ならぬお越し」
三保野がハッとなって呟くと、濃姫は読んでいた文を隠すこともなく、上座から退いて、そのすぐ脇に控え直した。
「暫し邪魔を致すぞ!」
やがて、信長がいつもの調子で部屋に入って来ると
「…何じゃ、誰からの文じゃ?」
上座の茵に着くなり、鋭利な眼差しを素早く姫の手元へ向けた。
「斎藤家より届きました文にございます」
「ほぉ、美濃からのう」
「近くあちらで、一つの大事が起きそうですので、母上が事前にお知らせ下されたのです」
「大事…」
信長はふいに黙し、宙に視線を泳がせた。
これも策略と駆引きが犇(ひし)めく場に身を投じる者の常なのだろうか?
あえて伺う事をせず、自力でその“大事”の中身を探ろうとしている様子であった。
濃姫は思わず口元に笑みを作ると
「この文の要件、詳しゅう話した方がよろしいですか?」
どこか余裕の感じられる口調で告げた。
信長は、はたと姫と目を見合わせると、彼女のその口振りから何かを察したのか、
口の片端を軽く持ち上げて「いや、良い」と静かにかぶりを振った。
「そなたが左様に申すという事は、時期がくればいずれ分かる事なのであろう?」
「仰せの通りにございます」
「急を要する事でないのならば別に良い。……それに今は、美濃の話をしている場合ではない故な」
「と、申されますと?」
姫が伺うと、信長はあえてそれには答えず、室内を徐(おもむろ)に見回した。
「それに致しても、お濃、そなたの座所は少々狭(せも)うはないか?」
「…そうでございましょうか?」