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「私の事を考えてくれる時間があるのか?」
「そりゃありますよ。小五郎さんは?」
ありますか?と丸い目で見つめられて,ある!ある!と興奮気味に頷いた。
「会合の合間やふとした時間に君の事ばかり考える。だからどんなに短くても会いたくて一緒にいたくて帰って来てしまう。
職務に集中しろと怒られるのは分かってるが私も三津との時間が欲しい。離れていた十月分も埋めたい。
今も距離が空いた分の心の穴が全然埋まらない。」 【生髮藥】胡亂服用保康絲副廠,可致嚴重副作用! -
寂しいんだと目を潤ませて見つめられると三津の胸はきゅうっと苦しくなる。
「小五郎さんの心は私が握ってるんでしょうか……。」
「そうだね。君が握っている。」
『じゃあ身篭ったあの人は空っぽの心の小五郎さんに抱かれてたんや……。それでホンマに幸せやったんやろか……。』
体が満たされたら心も満たされたんだろうか。
そんなはずない。心も欲しかったからこの私を逆恨みしていたんだ。だから子を身篭ったと知った時,彼女はとても喜んだに違いない。
でもその子を失った。桂も手に入らなかった。
『今でも私を恨んではるやろな……。』
「身篭った方は……好きになってくれなくてもいいと言いませんでしたか?」
目を見て問えば桂は何とも言えない複雑な顔をした。
「言われた……。気持ちがなくても構わないからと……。何故それを……。」
「小五郎さんの心を私が握ってるなら彼女を抱いた小五郎さんは空っぽやったんやなって思って。空っぽでも構わないって,そんなんで幸せなんやろか……。
小五郎さんの心も手に入れられんと身篭った子も亡くして……。彼女を不幸にしたのは私でしょうか。」
「違う不幸にしたのは私だ。君がそこを深く考える必要はない。」
「同じ女として考えますよ。でも考えたって人の幸せなんてそれぞれやし私がそんなん考えたって何にもならんのは分かってます。
やから何も考えずただ過ぎた事と思うしかないんですよね。
ごめんなさい。せっかく二人やのにこんな話。」
三津は忘れてと笑ったが桂は項垂れた首を横に振った。三津は桂の前に回り込んで背伸びをして両手でその顔を挟んだ。
「じゃあ忘れなくていいんで気持ちを切り替えましょう。小五郎さんは長州を引っ張る方です。こんな事で下や後ろを向いたらあきません。前だけを見ましょう。」
三津の力強い瞳に見つめられて桂はまっすぐその目を見た。
「駄目だ。前が見えない。三津しか見えない。」
君でいっぱいだと微笑む桂の頬を三津は照れ隠しでぎゅっと摘んだ。「本当に三津だけを見てたい。さっさと仕事を終わらせて誰か適任者に丸投げして君と萩でのんびり暮らしたいよ。」
「丸投げされる方はいい迷惑ですね。」
だけどそれもいいなと笑った。萩はいい所だった。向こうに行けば文とフサと楽しく過ごせる。そんな日が来たらいいと思いながら屯所に戻った。
屯所に戻れば桂は手にしていたお土産を文に巻き上げられた。文曰く老舗のいいお菓子らしい。包みに印された紋で分かると口角を上げた。
「桂さん女にばっか買わんと俺らにも酒ぐらい買ってくれや。」
高杉が通りすがりに女は得やなとケチをつけた。
「白石さんのお金で酒買ってるんだからそれで充分だろ。晋作こそいつも身の回りの世話をしてくれるみんなを労え。」
桂の言葉に文と幾松がそうよそうよと乗っかった。文達に責められたじろぐ高杉を三津はじっと見ていた。
「三津さん俺の顔に何かついとるん?」
「いえ?出来たら後でお話出来へんかなぁって。お時間いいですか?」
三津からの誘いに高杉本人含め全員がきょとんとした。
高杉が小さく咳払いをしてまんざらでもない表情で“いいぜ”と言った所で三津は文に両肩を掴まれた。
「何を血迷ったか分からんけど三津さんが話があるなら構わん。でも二人きりは絶対いけん!」
真顔の文の後ろでフサと幾松も激しく頷いている。
「大丈夫です。武人さんも誘いますから。」
「なんや三人でしゃれ込む気か。」
高杉の発言に文はすかさず手刀を脳天に落とした。
桂は赤禰の名を聞いて三津の考えが分かったからその件には何も言わなかった。だが今はこっちの事だけを考えてもらいたいものだ。